執筆者:岩田幸記(ケイファンアプレイザル株式会社 代表取締役/不動産鑑定士)
当社は東京都江戸川区の葛西駅近くにある不動産鑑定事務所です。今回は、地元・江戸川区の地価を、データで分析してみました。
江戸川区といえば「地価が安い」とよく言われます。でも、区の中を細かく見ても、本当にどこも同じように安いのでしょうか。
そこで今回は、東京都の地価調査(基準地価)の2017年から2026年までの10年分のデータを使って、江戸川区の住宅地の地価を調べてみました。以下の『9年間』は、2017年と2026年を比べた変化のことです。切り口は「沿線」です。江戸川区を通る東西線・都営新宿線・総武線の3つに分けて、価格の高さ、上がり方、上がった時期、駅からの距離を比べています。
先に結論を言うと、同じ江戸川区でも、沿線によって地価の状況はかなり違いました。しかも、先に伸びた沿線と、あとから追い上げた沿線があったんです。
なお、ここでいう「沿線」は、各地点の最寄駅がどの路線の駅かで分けたものです。その地点に住む人が実際にその路線を使っているとは限らない点だけ、頭の片隅に置いておいてください。
首都圏全体の地価の動きは、コラム「都心から同じ距離なら、千葉は東京より上がっていた」で紹介しています。あわせてご覧ください。
1. 同じ区内で2倍の差。しかも、その差は広がっていた
江戸川区の住宅地には、一番高い地点と一番安い地点で2倍以上の差がありました。しかも、その差は9年間で広がっています。
2026年の基準地価で、区内で一番高いのは西葛西三丁目の地点で、1㎡あたり約65万円。一番安いのは鹿骨一丁目の地点で、約30万円です。その差は2.14倍。「江戸川区は安い」と一括りにするには、ちょっと幅が大きすぎますよね。
さらに面白いのは、2017年の時点ではこの差が1.83倍だったことです。区内の地価はみんな上がったのですが、同じように上がったわけではありません。もともと高かった地点ほど、よく上がる傾向が見られました。たとえば西葛西三丁目は2017年から2026年までの9年間で43.0%上昇したのに対し、鹿骨一丁目は22.7%の上昇にとどまりました。
下のグラフは、区内の住宅地25地点について、2017年(白丸)から2026年(塗り)への価格の動きを並べたものです。上の地点ほど線が長い=よく上がった、というのがひと目で分かると思います。色は沿線を表していて、上のほうには青(東西線)、下のほうには緑(都営新宿線)が多いのも分かります。この沿線の違いを、次の章で見ていきます。

2. 沿線で見ると、「相場」の感覚はこんなに違う
2026年の価格は、東西線の地点が都営新宿線より4割半ほど高く、総武線は1割強高い水準でした。ただし、地点ごとに見ると、沿線どうしの価格帯はかなり重なっています。
沿線ごとに、地点の価格を並べて真ん中の値(中央値)を比べると、次のようになりました。
| 沿線 | 地点数 | 2026年の中央値 | 都営新宿線との比較 |
| 東西線(西葛西・葛西) | 4 | 約55万円/㎡ | 45%高い |
| 総武線(平井・小岩・新小岩) | 9 | 約43万円/㎡ | 13%高い |
| 都営新宿線(船堀・一之江・瑞江・篠崎) | 12 | 約38万円/㎡ | ― |
同じ区内でも、沿線が変わるだけで「相場」の感覚がずいぶん違いますね。ただし東西線は4地点しかないので、ここは「そういう傾向がある」くらいに受け取ってください。
ところが、地点ごとに見ると話はそう単純ではありません。都営新宿線の瑞江四丁目(約53万円)や、総武線の南小岩六丁目(約54万円)は、東西線の北葛西四丁目・南葛西二丁目(どちらも約50万円)より高いんです。「東西線沿線だから高い」とは限らず、地点しだいで普通に逆転します。

もうひとつ、沿線の中の幅にも違いがありました。東西線は一番高い地点と安い地点の差が1.30倍ですが、都営新宿線は1.76倍、総武線は1.58倍。都営新宿線は、同じ沿線の中でもばらつきが大きい沿線だと言えます。
ちなみに、沿線ごとに土地の使い方のルール(用途地域)の構成も違います。東西線の4地点はすべて「第一種住居地域」で、都営新宿線は12地点中9地点が「第一種中高層住居専用地域」です。そのため、ここで見えている価格の差が、路線そのものの違いによるものとは言い切れません。
3. 伸びた時期は、沿線ごとに違った
前半によく伸びたのは東西線、後半に一気に伸びたのは総武線でした。いわば「主役交代」です。
2017年から2026年までの9年間を3年ずつに区切って、各地点の上昇率の中央値を比べてみました。
| 沿線(地点数) | 2017→20年 | 2020→23年 | 2023→26年 |
| 東西線(4) | 16.8% | 4.4% | 14.6% |
| 都営新宿線(12) | 10.0% | 5.3% | 16.4% |
| 総武線(9) | 8.1% | 6.0% | 21.4% |
最初の3年間、東西線は総武線の倍以上のペースで上がっていました。ところが最後の3年間は立場が逆で、総武線が東西線を7ポイントほど上回りました。この入れ替わりは、中央値でも平均値でも同じです。ただし東西線は4地点だけなので、ここも「傾向」として見てください。
2017年を100とした推移で見ると、もっと分かりやすいです。東西線は2025年までずっと先頭でしたが、2026年に総武線(142.3)が東西線(140.4)を追い抜きました。

「一番上がった沿線」は決められない
では、9年間の通算で一番上がったのは総武線でしょうか。実は、ここは言い切れません。
中央値では総武線42.3%、東西線40.4%で総武線が上です。ところが平均値では、東西線40.8%、総武線37.1%と順位が入れ替わります。通算では「東西線と総武線がほぼ互角で、都営新宿線(34.7%)が少し低い」というのが正直な答えです。
さらに、上がった「金額」で見ると景色が変わります。9年間の上昇額の中央値は、東西線が1㎡あたり約16万円、総武線が約12万円、都営新宿線が約10万円。もともとの価格が高い東西線は、「何%」では互角でも「何円」では頭一つ抜けています。
総武線の中でも、伸び方は二つに分かれていた
「総武線が伸びた」といっても、沿線全体が伸びたわけではありません。平井・小岩の6地点は9年間で36.9~44.3%上がった一方、新小岩が最寄駅の2地点(松島一丁目・松本一丁目)と上一色二丁目は25.8~27.5%でした。この3地点は、どれも駅から1,200~1,700m離れています。この「駅からの距離」の話は、次の章で探っていきます。
小話:2021年の動き
9年間のうち、2021年だけは区内の地価の動きが止まりました。この年に上昇した地点があったのは都営新宿線だけ(12地点中5地点)でした。東西線は4地点すべて横ばい、総武線は9地点中4地点が小幅に下落しています。その総武線が、後半には一番の伸びを見せたわけです。
4. 駅に近いほど高く、そしてよく上がった
駅に近い地点ほど価格が高く、しかも9年間の上昇率も高い傾向が、はっきり出ました。
まず価格です。横軸に最寄駅からの距離、縦軸に2026年の価格をとって、25地点を点で描くと、右下がりに並びます。「駅近は高い」という直感どおりの結果ですね。
ただ、同じくらい駅に近くても価格は揃いません。駅から400m前後の3地点を比べると、西葛西三丁目(東西線)が約65万円、瑞江四丁目(都営新宿線)と平井三丁目(総武線)が約53万円で、約1.2倍の差がありました。ただ、3地点だけの比較なので、これを「路線の差」とまでは言えません。

逆に、都営新宿線には駅から1,700~2,400mと遠い地点が3つあり、どれも区内の下位です。2章で見た「都営新宿線の中央値が低い」という結果には、こうした駅から遠い地点が含まれていることも重なっていそうです。
次に上昇率です。こちらの方が、個人的には驚きでした。縦軸を9年間の上昇率にすると、やはり右下がりになります。駅に最も近い4地点(400~510m)は41.5~44.1%上がったのに対し、駅から最も遠い5地点(1,600~2,400m)は22.7~26.0%でした。「駅近は高い」だけでなく、「駅近ほど値上がりも大きかった」わけです。3章で触れた総武線の「伸びた地点と伸びなかった地点」も、この図の上と下に分かれて並んでいます。

もちろん例外もあります。船堀七丁目の地点は駅から920mと、区内ではごく普通の距離です。それでも上昇率は45.4%で、区内トップでした。駅距離だけですべてが決まるわけではない、ということですね。
また、駅に近い地点はもともと価格も高いので、1章の「高い地点ほどよく上がった」という話とは表裏の関係にあります。駅距離ともともとの価格のどちらが効いているのか、このデータだけでは切り分けられません。
まとめ
「江戸川区は安い」の一言では片付かない、というのが今回の実感です。
- 同じ区内でも、住宅地の価格には2倍以上の差があり、その差は9年間で広がった。
- 沿線ごとの真ん中の値では、東西線が都営新宿線より4割半ほど高い。ただし地点しだいで逆転もある。
- 前半は東西線、後半は総武線がよく伸びた。9年間の通算では、この2つの沿線はほぼ互角。
- 駅に近い地点ほど価格が高く、値上がりも大きかった。
つまり江戸川区の地価は、「どの沿線か」「いつの話か」「駅からどのくらいか」で、ずいぶん違う姿を見せてくれます。
ちなみに商業地も少しだけ見てみると、9年間の上昇率の中央値は55.3%でした(継続地点8地点)。住宅地の39.0%を約16ポイント上回っています。
当社では、地域の地価動向の調査やマーケットレポートのご依頼も承っています。お気軽にお問い合わせください。
分析方法・注意点
- 使ったデータ:国土数値情報「都道府県地価調査(L02)」2026年版のうち、江戸川区の基準地。価格は各年7月1日時点、1㎡あたりです。
- 対象地点:2017~2026年のすべての年に価格がある地点(継続地点)だけを使いました。住宅地は25地点(東西線4、都営新宿線12、総武線9)、商業地は8地点です。途中で新設・選定替えされた住宅地3地点は含まれていません。
- 沿線の分け方:各地点の最寄駅がどの路線の駅かで分けました。新小岩駅は葛飾区にありますが、総武線に含めています。駅から遠い地点もあり、実際にその路線が使われているとは限りません。
- 集計方法:上昇率は地点ごとに計算してから、中央値(並べたときの真ん中の値)をとっています。平均値を使った箇所は、本文で明記しています。
- 地点数が少ないこと:東西線は4地点しかないため、東西線の結果は「傾向」として読んでください。
- 用途地域との重なり:沿線ごとに用途地域の構成が大きく違うため、沿線間の価格差を路線のせいとは断定できません。駅からの距離についても、関係は見られますが、原因と結果までは言えません。
- 基準地の性格:基準地は鑑定評価のために選ばれた地点で、区内の土地を無作為に選んだものではありません。沿線ごとの数字は「その沿線の基準地の中央値」であり、沿線全体の地価そのものではない点にご注意ください。
出典:国土交通省「国土数値情報(都道府県地価調査データ)」をもとに著者作成


