鑑定評価書と価格調査(調査報告書)の違いとは?会計上の評価で困らないための見分け方

執筆者:岩田幸記(ケイファンアプレイザル株式会社 代表取締役/不動産鑑定士)

不動産鑑定士に不動産の価格を出してもらう方法には、大きく「鑑定評価」と「価格調査」の2つがあります。どちらも不動産鑑定士が行いますが、できあがる報告書の扱いは同じではありません。

提出先が鑑定評価書を求める場面で価格調査の報告書を出すと、受け付けてもらえず、評価を取り直すことになる場合があります。

この記事では、2つの違いと報告書での見分け方、特にルールが細かく定められている会計上の評価での注意点を解説します。

1. 違いの核心:鑑定評価基準のすべてに則るかどうか

不動産鑑定士が価格を求めるときのルールとして、国が定めた「不動産鑑定評価基準」があります。鑑定評価と価格調査の違いは、この基準のすべてに則っているかどうかです。

  • 鑑定評価:基準のすべての内容に従って行います。成果物は「不動産鑑定評価書」です。
  • 価格調査:依頼の目的や使い道に応じて、基準の手順の一部を省いて行います。成果物は「調査報告書」「価格調査書」などの名称になります。

価格調査は、手順を省く分だけ費用と期間を抑えられます。その代わり、使える場面が限られます。

どちらで行うかは、業務の初めに不動産鑑定士と依頼者が「業務の目的と範囲」を確認して決めます。国土交通省の「価格等調査ガイドライン」で定められた手続きです。

費用の目安と、場面ごとの選び方は、コラム「不動産鑑定の費用はいくら?」で紹介しています。

2. 報告書で見分ける方法

手元の報告書が鑑定評価か価格調査かは、表紙と価格の欄を見れば見分けられます。価格調査の報告書には、利用者が誤解しないよう、鑑定評価との違いを示すことが定められているためです。

確認する箇所鑑定評価価格調査
報告書のタイトル不動産鑑定評価書調査報告書、価格調査書、意見書など
価格の表題鑑定評価額調査価格、調査価額、意見価格など
価格の近くの注意書きなし鑑定評価とは結果が異なる可能性がある旨が記載
基準との違い(すべて則るため記載なし)基準との主な相違点と、その合理的な理由が記載

「簡易鑑定書」「価格評価書」のように、鑑定評価書と紛らわしい名称は、価格調査には使わないこととされています。ただし、実際にはそのような名称の報告書も見かけるため、鑑定評価と取り違えないよう注意が必要です。また、不動産会社の査定書は、鑑定評価ではありません。

3. 財務諸表作成目的の評価にはルールがある

重要性がある不動産の減損損失の測定、販売用不動産の評価、賃貸等不動産の時価開示では、原則として鑑定評価が必要です。

企業会計基準が適用される場面ごとの評価方法が、国土交通省の「財務諸表のための価格調査の実施に関する基本的考え方」と、公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会の「財務諸表のための価格調査に関する実務指針」で定められています。

これらでは、評価の方法を次の2つに分けています。

  • 原則的時価算定:原則として、不動産鑑定評価基準に則った鑑定評価です。
  • みなし時価算定:原則的時価算定以外の方法で、鑑定評価の手法を選択的に適用し、または市場価格を反映していると考えられる指標を使い価格を求める方法などです。
会計上の場面重要性がある不動産重要性が乏しい不動産
減損:兆候の把握どちらでも可どちらでも可
減損:減損損失の認識の判定どちらでも可どちらでも可
減損:減損損失の測定(現在の正味売却価額)原則的時価算定どちらでも可
棚卸資産(販売用不動産)の正味売却価額原則的時価算定どちらでも可
賃貸等不動産:個々の不動産の時価の注記原則的時価算定どちらでも可
企業結合上記資産の分類に応じます上記資産の分類に応じます

出典:公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会「財務諸表のための価格調査に関する実務指針」表4をもとに作成(一部省略)。「どちらでも可」は、原則的時価算定とみなし時価算定のどちらも認められるという意味です。

ただし、毎期必ず鑑定評価を取り直す必要があるわけではありません。次のような取扱いも認められています。

  • 価格調査が認められる例外:建設中の建物を含む場合(建設仮勘定)、建築工事の完了後の状態を前提とする場合、過去に評価した不動産の再評価の3つです。再評価は、前回から12か月以上36か月未満が目安です。
  • 時点修正:前回の評価から価格や指標に重要な変化がなければ、前回の評価に調整を加えて時価を求められます。期間は原則として12か月未満、賃貸等不動産は12か月以上36か月未満が目安です。前回の評価を同じ不動産鑑定士が行っていることが前提です。

また、不動産に重要性があるかどうかは、不動産鑑定士ではなく会社が判断します。不動産鑑定士は、依頼を受けるときにその判断を会社に確認しなければなりません。

4. 実際に論点になった例

私はデロイト トーマツ グループに約16年間在籍し、会計監査の立場から企業が提出した不動産の評価を数多く検証してきました。その中で、次のようなケースが論点になることがありました。

  • 減損損失の測定:重要性がある不動産なのに、減損損失を測定する根拠として価格調査の報告書が提出されていた。
  • 賃貸等不動産の時価開示:重要性がある賃貸等不動産の時価の注記の根拠として、収益還元法が非適用の価格調査の報告書が使われていた。
  • 不動産会社の簡易なレポート:原則的時価算定が求められる場面なのに、不動産会社が作成した簡易なレポートが根拠として提出されていた。

いずれも、前の章の例外や時点修正には当たらず、ルール上は鑑定評価が必要な場面でした。

監査で指摘を受けると、説明や追加資料の対応に時間と手間がかかります。最悪の場合は鑑定評価を取り直すことになります。決算の日程が迫るなかで依頼し直すため、最初の評価の費用が無駄になるうえ、決算の日程にも影響が出ます。

原因の多くは、依頼の段階で「会計上のどの場面で使うのか」「重要性があるか」が確認されていなかったことです。本来は、不動産鑑定士が依頼を受ける時点でこの2点を確認し、鑑定評価が必要であればそのことを会社に伝えるべきでした。

財務諸表のための評価の経験が少ない不動産鑑定士に依頼すると、こうした確認が抜け落ち、思わぬ手戻りにつながることがあります。監査をスムーズに進めるためにも、財務諸表のための評価に慣れた不動産鑑定士に依頼することをおすすめします。

5. 依頼前に確認すること

これらを防ぐには、依頼の前に次の5点を確認しておくと安心です。

  1. 使い道を最初に伝える:減損損失の測定、時価の開示など、会計のどの場面で使うかを、依頼のときにお伝えください。
  2. 重要性を社内で判断しておく:重要性の判断は会社が行います。評価の方法を監査法人と前もってすり合わせておくと確実です。
  3. 見積書と契約書で、鑑定評価か価格調査かを確かめる:業務の目的と範囲は、契約のときに交付される確認書にも記載されます。
  4. 納品された報告書を確かめる:タイトル、価格の表題、注意書きを、2章の表と照らし合わせてください。
  5. 時点修正で済ませる場合は、前回の評価を確認する:前回からの期間と、前回の評価が原則的時価算定(原則として鑑定評価)で、同じ不動産鑑定士が行ったものかどうかを確かめてください。

当社では、会計監査の立場で評価書を検証してきた経験をもとに、使い道と重要性を伺ったうえで、必要な評価の方法をご提案します。見積もりの際にお知らせいただきたい情報は、「不動産鑑定の費用はいくら?」の9章にまとめています。

6. まとめ

  • 鑑定評価は不動産鑑定評価基準のすべてに則って行い、価格調査はその手順の一部を省いて行います。
  • 鑑定評価かどうかは報告書のタイトル、価格の表題、価格の近くの注意書きで見分けられます。
  • 重要性がある不動産の減損損失の測定、棚卸資産(販売用不動産)の評価、賃貸等不動産の時価開示では、原則として鑑定評価が必要です。
  • 再評価や時点修正など、毎期鑑定評価を取得しなくてもよいケースもあります。
  • 依頼の前に、使い道と重要性を不動産鑑定士と監査法人に伝えておくことが、監査上のリスクを防ぐ一つの方法です。

初回のご相談とお見積もりは無料です。依頼の目的、希望スケジュール、物件概要を添えて、お問い合わせフォームからお気軽にご連絡ください。

関連ページ:鑑定評価の流れ・報酬/ご利用場面/よくあるご質問

参考:国土交通省「財務諸表のための価格調査の実施に関する基本的考え方」、公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会「財務諸表のための価格調査に関する実務指針」「『価格等調査ガイドライン』の取扱いに関する実務指針」